秋田県能代市の「有限会社能代産業廃棄物処理センター」(福田雅男社長)は1980年、同市浅内の産廃処理場の操業を始めた。でたらめなゴミ処理を行い、住民の口コミですぐに最低・最悪の評判が広まった。1987年に汚水が周辺に染み出しているのが見つかり、社会問題化した。発がん性物質などの汚水漏れを繰り返し、秋田県から使用停止命令などの行政処分を受けたこともあった。
「林地開発」の許可申請
1989年、同産廃業者は処分場を増設するため、秋田県に対して、「林地開発」の許可申請を行った。秋田県はこれを許可した。
その結果、汚水漏れが拡大し、住民は多大な被害を受けることとなった。
原田悦子市議が情報公開を請求
能代市の原田悦子市議は、悪徳業者及び県に対応を改善すべく、熱心な市民活動を行ってきた。「能代産廃を考える会」の事務局長も務めてきた。その一環として、1989年の県の開発許可の妥当性に疑問を呈した。1994年8月、秋田県情報公開条例に基づき、原田市議は「開発許可の申請書」と「添付書類」を公開するよう請求した。
「水利権者の開発行為に対する同意書」
公開を求めた申請書の添付書類の中には、「水利権者の開発行為に対する同意書」が含まれていた。その同意書には個人の名簿が付いており、氏名や住所なども載っていた。
非公開を決定
秋田県は、この同意書が「個人情報」に当たるとして、非公開を決定した。
県公文書公開審査会が審議
この決定について、原田市議は異議申し立てを行った。
秋田県公文書公開審査会が審議し、県の非公開の決定を支持した。
公開を認めず
審査会の結論の趣旨は以下の通り。
「公開を求めるのは同意書の撤回を求めるためであり、個人の権利の保護と軽重を比較すれば、公益上、公開が必要とは認めがたい」
原田市議は、秋田県の「非公開」決定の取り消しを求めて、秋田地方裁判所に行政訴訟を起こした。
法定審議において争点となったのは、開発行為の同意書の名簿だった。
一審では秋田県が勝訴
1996年12月の一審判決では、原田市議の請求が棄却され、秋田県が勝訴した。
秋田地裁は「同意書は個人情報であり、公開する必要はない」とした。
高裁で逆転
しかし、控訴審の仙台高裁秋田支部は、秋田県敗訴の逆転判決を下した。
判決の言い渡しは、1997年12月17日。
開発行為に同意した水利権者の氏名や住所などの公開を秋田県に命じた。
守屋克彦裁判長
判決を下したのは守屋克彦裁判長だった。
死刑判決一覧によると、守屋裁判官はこれに先立つ1990年、盛岡地裁勤務のとき、自分の妻子5人を殺した男・加鬮山秀武(かくちやま・ひでたけ)の刑事裁判において、死刑でなく無期懲役の判決を出した。高裁で逆転死刑となった。(詳細→)
本件(能代産廃問題)では、市民の視線に立った判決を出したことで、死刑回避に伴う悪い評判が若干改善した。
判決内容
守屋裁判の判決は、まず、同意書を「プライバシーとして保護される情報」と秋田県側の主張に沿った位置づけをした。
そのうえで、「開発を許可するか不許可とするかを判断する上で、重大な影響を及ぼす資料である」と強調した。
秋田県公文書公開条例にある「秋田県民の秋田県政への理解と信頼を深める」という目的も考慮したうえで、
「公開でプライバシーが侵害される程度は、文書の公的側面よりも相対的に低い」と判断した。
上告断念で、判決が確定
秋田県は1997年12月26日、最高裁への上告を断念した。判決が確定した。
秋田県森林土木課は「公益性とプライバシー保護の軽重の判断についての社会意識の変化を考慮した」と説明した。
鈴木洋一・秋田県議も歓迎
裁判の原告だった原田市議は「上告断念で、秋田県の情報公開が前進した」と評価した。原田市議と共に問題を追及してきた鈴木洋一・秋田県議も歓迎した。
政治家に目指していただきたいゴールは、総理大臣になることではない。私たち有権者も、行政や悪徳企業の不正をただし、立場の弱い市民・国民・住民の役に立つ政治家をもっと応援すべきだ。
総合商社の巨額投資
また、秋田県といえば、三菱商事など東京の総合商社と共に、洋上風力発電を推進している。財政や雇用情勢が厳しい秋田で、商社が巨額投資を行うのは結構なことだ。ただ、洋上風力も大いに結構だが、秋田県知事には産業廃棄物問題に引き続き力を入れて欲しい。
本裁判の後の1998年、「有限会社 能代産業廃棄物処理センター」は倒産した。能代市浅内に約101万トンもの産業廃棄物を残したまま破産。汚水が残ったまま処理場に放置された。このため、秋田県が管理することになった。2006年の調査で不法投棄された廃油入りドラム缶が発見された。秋田県は撤去するよう措置命令を出した。県は2007年6月、廃棄物処理法違反容疑で秋田県警に告発した。
略式起訴
社長だった福田雅男は廃棄物処理法違反(措置命令違反)の罪で略式起訴され、2010年1月に能代簡裁(簡易裁判所)から罰金50万円の略式命令を受けた。
公費44億円を浪費→罰金はわずか50万円
跡地の汚染拡大防止などに要した44億円を超える公費に比べると、とんでもない少額だ。略式起訴のため、刑事裁判が行われず、真相解明が進まなかった。不起訴であれば検察審査会に申し立ても可能だったが、それもかなわなかった。
督促後に罰金納付
福田は4月20日、罰金額を能代区検に納付した。現金書留で届いたという。納付期限の1月23日を過ぎても納付せず、秋田地検が督促を行った。そのとき「支払う金がなく、集めているところ」と話していたという。(処分場の現状→